(前回:アルゴリズム元号予想⑥へ)
音による元号候補絞り込みも今回が佳境となります。前回までの内容と総合的な考察は以下のとおりです。
開始子音
日本語では、子音よりも母音が音声認識において重要な役割を果たします。万人にとって明瞭で聞き取りやすい母音始まりの漢字は元号にも広く好まれているようです。破裂音として聞き取りやすく硬性と力強さを持つ子音kも 、元号の音の始まりに相応しく、第一字に採用されやすいでしょう。一方で、清爽で軽快な摩擦音sは、元号には不向きかもしれません。
母音と語尾子音
音の安定性から、短母音のみの字の採用は「和」「治」を除けば極端に少なく、また採用は第二字にほぼ限定されると考えると、「昭和」および「明治」と被る短母音の字の採用の可能性は低いでしょう。正味の候補はせいぜい「化」くらいと思います。
包容感、広大さを想起させる長母音ooは広く取り入れられる可能性が高いです。
二重母音のうち、遙遠さをイメージさせるeiは元号に適した音です。しかし、「平成」で両方の字に取り入れられているので、新元号への採用可能性については何とも言えないところです。
二重母音aiについて、実質採用されうるのは「大」であること、音の安定性から第二字へ取り入れられる見込みが低いことを踏まえると、「大正」との被りから結局避けられるのではないでしょうか。
語尾子音については、第一字にen、第二字にok(実質採用されうる字は「徳」)の採用の見込みは高いと言えます。解放感と安定感に富んだanも有力な候補ではありますが、現首相の名字に採用されている「安」は回避され、実質的な候補字は「寛」くらいでしょう。(ちなみに「寛」は、小学校で習う漢字には含まれていないのですが、名前に通用している字でもあるし、元号候補の対象字に含めることにしたいと思います。)
音パターンから対象候補を絞り込み
以上の音の傾向分析を踏まえた上で思い切った選別を行い、元号候補の音パターンをこちらの3,514パターンに絞り込みました。
「化」「寛」「徳」などは、その音で採用される字がこれらに特定されているので、字を直接リストに記載しています。
第二字が「化」のパターンの第一字は、むしろ意味によるスクリーニングが重要だと思いますので、音は限定していません。
この3,514パターンは、小学校で習う漢字を意味によるスクリーニングを掛けた候補字群(これに常用漢字の「寛」を加えた)のすべての組み合わせから構成したものですので、さらに、
- 近代元号のイニシャルとそれと似たアルファベット(H,S,T,M,I,W,N)始まりの組み合わせを除く
- 既に日本の元号で採用されているものを除く
- 更なる意味の振るい落とし(例えば「化」の第一字に相応しそうなもの、等)
これらの振るい落としも行って候補群に残ったのが、こちらの299例です。中には過去に勘申されたものもいくつか含まれています。やや地味なものが残った印象ですが、 皆さんのお好みの候補はどれでしょうか。
この299例それぞれついて以下の最後の振るい落とし作業を行い、私の最終元号候補としたいと思います。
- 大陸で過去に使用された年号(中国、朝鮮、ベトナム)や追号、諡号を除く
- 俗用されているものとして、商号、屋号、商標、地名、人名に採用されているものを除く
- 漢籍の出典
次回がいよいよ最終回となります。
(次回:アルゴリズム元号予想⑧へ)
参考文献
- 黒川伊保子 『日本語はなぜ美しいのか』 集英社新書 2007年
- 所功・久禮旦雄・吉野健一『元号 年号から読み解く日本史』文春新書 2018年