2021年度 将棋大賞を予想する(第28回 升田幸三賞編)

低級観る将が勝手に将棋大賞を予想するシリーズ、今回は升田幸三賞編。
毎度プチ自慢で恐縮だが、昨年度は升田幸三賞も的中させることができた。詳細は下記参照。
将棋大賞を予想する(升田幸三賞編) | 帰宅部戦線異状なし (kitakubu-front.com)

今年は、受賞に値するほどの流行した定跡や戦法がないと考えている。(もしかしたら流行した戦法があるのかもしれないが、振り飛車党かつ級位者の私には、残念ながら居飛車の細かい戦型の違いが分からない)
従って「感動を与えた新手や妙手」が受賞すると踏んでおり、ズバリ「棋王戦挑戦者決定トーナメント 郷田九段-佐藤康光九段戦にて康光九段が指した22手目、9六銀」と予想。

こちらがどのような手かと言うと、後手番の康光九段がダイレクト向かい飛車から、居玉のまま右銀を8二→9三→8四→8五→9六と単騎で特攻させた斬新な手順である。結果は康光九段が苦戦しながらも終盤で逆転し勝利、独創性だけでなく結果も見せつけた。
この手に対しては将棋ファンのみならずプロ棋士からの反響も大きく、山本博志四段は「(佐藤先生の前では)ソフトの評価値は佐藤先生の個性を際立たせる存在でしかない」と評した。
個人的には、近年の序盤のソフト研究に対するアンチテーゼのようにも映り、その観点でも十分受賞にふさわしい手だと考える。

その他に対抗の候補も出したいのだが、あまりに9六銀の印象が強すぎて他の新手、妙手が思いつかない。
強いて挙げるなら、王将戦第1局で藤井聡太竜王が指した8六歩か。ただ「戦法・戦術」とまでは言えない気がするし、「感動を与えた新手」と言うにはマニアックすぎる気がする。何より2年連続で藤井五冠が名局賞・升田幸三賞(特別賞)をダブル受賞するのはやりすぎだろう。

というわけで改めて私の予想は、「佐藤康光九段 棋王戦挑決トーナメント対郷田九段戦の22手目、9六銀」とする。

例年通りであれば将棋大賞の発表は4月1日である。その日が待ち遠しい限りだ。



2021年度 将棋大賞を予想する(第16回 名局賞編)

2021年度の将棋大賞名局賞・升田幸三賞の投票受付が開始された。
https://www.shogi.or.jp/form/event/2816.html
観る将の集大成として、今年も予想してみたい。
(手前味噌で恐縮だが、昨年度は見事予想を的中させることができた。詳細は下記参照)
将棋大賞を予想する(名局賞編) | 帰宅部戦線異状なし (kitakubu-front.com)
今回は名局賞について。
今年度においては、下記2局の一騎打ちだと考えている。

本命:竜王戦第4局 豊島竜王●-藤井三冠○
本命はこちら。藤井聡太現五冠の竜王位獲得局である。
本命に推す理由は、中終盤まで優劣不明の激戦であったことに加え、最終盤で先手の2二歩を逆用した非常に珍しい詰み筋が生じたことである。
もしこの歩を打っていなければ豊島玉は入玉に成功していたはずだが、実際にはこの歩が先手玉の逃走を妨げる邪魔駒になってしまい詰む変化が生じた。
本譜では豊島竜王が上記変化を避けたが、結局別の筋で詰んでしまった。
数十手前に指した辺境の地の歩が勝敗に直結したという意味では、かの「一歩竜王」を彷彿とさせる(奇しくも彼も「藤井竜王」であった)。
この点を考慮すると、名局賞に最もふさわしいと考える。

対抗:王将戦第1局 藤井竜王○-渡辺王将●
対抗はこちら。形勢は中終盤まで互角で、終盤では渡辺王将有利の局面もあったようだ。しかし最終盤で、藤井竜王が自陣に打った桂馬を活かした見事な寄せで逆転。最後まで優劣不明だった激戦を対抗に推す。

というわけで改めて現時点での予想は「竜王戦第4局 豊島竜王-藤井三冠」とさせていただく。今年度は藤井五冠が圧倒的な実力を見せつけたこともあり、タイトル戦での熱戦が例年よりもやや少なかった印象である。
次回は升田幸三賞を予想する予定。


…上記の文面を3月3日に書き上げてこのまま投稿するつもりだったのだが、同日のA級順位戦最終局にて激闘があったため、こちらを対抗の筆頭候補に格上げしたい。

対抗:A級順位戦9回戦(千日手指し直し局)菅井八段●-豊島九段○
同日行われた千日手局が111手で22時40分に終局したため、指し直し局の開始時刻は23時を回っていた。指し直し局も凄まじい激闘で終局は166手、終局時刻はなんと3時18分。「将棋界の一番長い日」にふさわしい死闘である。
内容も二転三転する熱戦で、棋譜コメントでは131手目に「先手勝勢になっている」とあるのだが、そこからもつれて結局後手の豊島九段が逆転勝ちを収めた。
A級の最終局は注目度も高く、また年度終わりで時期的にタイムリーであることも受賞に有利に働きそうだ。
さすがに本命の竜王戦第4局を上回るとは考えづらいが、名局賞特別賞を受賞する可能性は高いように思われる。

というわけで改めて私の予想は
 名局賞:竜王戦第4局 豊島竜王-藤井三冠
 名局賞特別賞:A級9回戦(千日手指し直し局) 菅井八段-豊島九段
とする。

将棋大賞を予想する(升田幸三賞編)

前回に引き続き、将棋大賞の予想をしてみたい。今回は升田幸三賞。升田幸三賞とは、新手・妙手を指した者や定跡の進歩に貢献した者に与えられる賞である。

升田幸三賞の検討においては、以下2点が重要だと考える。
1.独創的か
特にこのソフト研究全盛の時代において、今まで見たことのない独創的な戦法か、という点は非常に大切だと思う。

2.流行したか
これもまた大切な点で、独創的ではあるが発案者しか指していないという戦法は、選考の上で少し弱い。(決して某会長をディスっているわけではない)
やはり藤井システムのように、将棋界の流行を生み出した戦法にこそ、升田幸三賞はふさわしいと考えるのである。
以上を踏まえて、私の候補は以下の通り。

本命:大橋貴洸六段 「耀龍(ようりゅう)四間飛車」
大橋先生の著書を読んでいないため理解が浅いが、自分の中では、「3八玉型で戦う四間飛車=広義の耀龍四間飛車」だと理解している。
この形の四間飛車は、久保九段が王座戦の挑戦者決定戦で採用するなど、今年かなり流行した印象がある。
「美濃囲いから王様を一路ずらす」というアイデアは(一応昔から囲いとしては存在していたらしいが)シンプルながら斬新で、十分に升田幸三賞に値する発案だと思う。

対抗:「振り飛車ミレニアム」
こちらも今年度流行した囲い。流行度で言えば耀龍四間飛車以上かもしれない。ただ既存の囲いの応用であり、若干独創性に欠ける点はマイナスか。
またこれは私が無知なだけだが、誰の発案なのか(誰が受賞者にふさわしいのか)、よく分かっていない。

大穴:藤井聡太二冠「3一銀(棋聖戦第2局)」
個人的に、実戦で現れた妙手と新戦法は分けて表彰すべきでは?と思うが、もし実戦での妙手が受賞するとすれば藤井二冠の3一銀だろう。ソフトが6億手読んで初めて最善手と示したとかいうそれである。
ただ前回の投稿の通り、私は藤井二冠が名局賞を受賞すると予想しているため、名局賞と升田幸三賞のダブル受賞はさすがにないと思う。

というわけで私の予想は「大橋貴洸六段の『耀龍四間飛車』」とさせていただく。

将棋大賞を予想する(名局賞編)

2020年度の将棋大賞名局賞・升田幸三賞の投票受付が開始された。
https://www.shogi.or.jp/form/event/2715.html
私も観る将のはしくれとして、ずばり予想してみたい。今回は名局賞について。
名局賞を選出するにあたり、個人的には以下の3要素が重要だと考える。

1.対局の重要性、注目度
2.将棋の内容
3.その他(手数、持ち時間)

まず1.について。
過去の名局賞はすべてタイトル戦、またはA級最終局・ラス前から選出されており、今後もこの流れは変わらないと考える。
言い換えると、朝日杯の準決勝・決勝については、内容としては名局賞に値すると思うが、タイトル戦ではないため受賞の可能性は限りなく低いと思われる。(名局賞特別賞を受賞する可能性はある)

次に2.について。
「名局賞」と呼ぶからには、両対局者の持ち味が発揮された上で、終盤まで形勢不明、あるいは終盤で形勢が二転三転する内容が望ましい。
具体的には、藤井聡太先生の3一銀が話題になった棋聖戦第2局は、渡辺先生の見せ場が少なく、名局賞かと言われると疑問符が付く。

最後に3.について。
これは副次的な要素かつ個人的な好みの問題であるが、やっぱり手数は短いより長い方が良いし、持ち時間を余らせての終局よりも両者1分将棋の方が良いよね、ということである。
これらの3要素を踏まえて、私が予想する名局賞候補は以下の通り。(肩書は当時)

本命:棋聖戦第1局 藤井七段○-渡辺棋聖●
本命に挙げる最大の理由は、終局図のインパクト、美しさである。私のような級位者の観る将は、対局者を伏せて局面だけ見せられても、何の対局か普通は思い出せない。ただ本局に関しては、渡辺棋聖の王手ラッシュを藤井七段が逆王手で凌いだ手はインパクト抜群で、私が今年唯一思い出せる終局図である。また藤井現二冠にとっての初のタイトル局ということで、対局の注目度としても申し分ない。
強いてマイナス面を挙げるとすれば、終始形勢は互角~藤井有利というところで、形勢の揺れという点で物足りない面があるかもしれない。

対抗:王座戦第4局 久保九段○-永瀬王座●
内容の濃密さで言えば上記の棋聖戦を凌ぐ名局。最終盤、永瀬王座の寄せが刺さったと思われたところから、久保九段の粘り強い銀打ちの受けをきっかけに形勢が逆転。手数201手という死闘であった。
マイナス面は特に思い当たらないが、私自身が日経新聞に掲載された本局の観戦記を読んでいるため、本局を過大評価している可能性がある。

穴:叡王戦第4局 豊島竜王名人●-永瀬叡王○
手数は上記の王座戦を超える232手。またこの第5期叡王戦全体が、4勝3敗2持将棋1千日手という激闘であったため、名局賞もこの叡王戦から選出したいという思惑は考えられる。
マイナス面としては、持ち時間が1時間とタイトル戦にしては短い点(これは叡王戦のレギュレーションの問題なので仕方ないが…)と、若干豊島竜王名人が決め損ねたという印象が強い点だろうか。

というわけで、現時点での私の予想は、「棋聖戦第1局 藤井七段-渡辺棋聖」とさせていただく。
次回は升田幸三賞を予想する予定。