海外の格闘技YouTubeにおける“こなれた”英語

前回の続きを書くためにネタを集めている過程で面白いYouTube動画を見つけました。
アメリカ人青年のシェイン君が格闘技のテクニック(小技)を軽快に紹介してくれる動画です。
個人的に彼の動画は結構好きで、前からちょくちょく見ているんですが、今日見た動画の中では特に多くの”こなれた”単語が使われていて、興味深かったのです。

そもそもパンチやキックを「打つ」って英語でなんて言うか皆さんご存知ですか?
実は「hit」でも「strike」でもありません。
答えは「throw(投げる)」です。
こう言うこなれた表現が、この動画には満載でした。
ここでいうこなれたとは、その分野で必要な感覚や考えを、専門用語ではなく日常的な単語で表現することです。

動画のタイトルは「あなたのフェイントが通じない5つの理由」。
で、その理由として「距離が遠すぎ」「相手の注意を引けてない」「無駄な動きが多い」「ためらっちゃう」「相手の動きにひるむ」を挙げています。

ところがここからが面白かったところ。
まず2つめの「相手の注意を引けていない」は、動画の中では「No respect(敬意がない)」と表現されています。
respectの直訳は「尊敬する」ですが、確かにもう少し軽く「一目置く」くらいのニュアンスでも使います。
また最近の格闘技界隈では、向かい合う相手には敬意を払うべいという哲学的・紳士的な考えも認められつつあります。賛否両論ありますが、少なくとも練習では必要な考え方でしょう。
だからここで相手の注意を引くことを、pay attentionではなくrespectという単語であえて表現することは、個人的にとてもしっくりくるものがありました。

また「無駄な動きが多い」は「Overselling」や「Bad sell」などと表現されています。
見ての通りsell(売る)が使われているので、攻撃をする自分が売り手で相手は顧客(市場)だと捉えていることになります。
確かに自分の攻撃が相手に当たるかは元来わからず、仕掛けによって当たる確率を高めていくのが打撃系格闘技です。
なので格闘技におけるやりとりを物の売れ行きに例えることは、なるほどな、という感じです。

ちなみに余談ですが、そもそも基本的なマーケティング理論そのものが「戦い」に由来しています。
第二次大戦の終結後のアメリカで、職がなくなった戦略系の将校が、企業に入った後に軍隊の発想を応用して広まった、という経緯があるためです。
例えば戦争でもないのに経営「戦略(Strategy)」という単語を使うのはその好例だと言われています。
私が格闘技と経営とに共通点が多いと言っているのは、こういうところにも要因があります。

話を戻して、最後の「相手の動きにひるむ」の項目。ここでは「Flinch or Bait」という表現が使われています。
Flinchはまさに「ひるむ」で、この項目以外でも動画の中で頻繁に出てくる単語です。これはそのままの意味。しかし一方のBaitは「餌」という意味です。
要するに相手の動きに後から対応するのではなく誘って打たせろと言ってるのがこの項目なのですが、それを「餌」と表現しているんですね。
恐らく釣りをイメージしているのだと思います。餌を仕掛けて、そこに食いついた相手を仕留める、という部分に共通の感覚を見出しているのでしょう。
日本語で言うとこれは「布石」ですが、どうも最近はそれを「撒き餌」と言う人も増えているようです。
もしかしたら外国人コーチから聞いたこの表現を、最近の日本人が借りているのかもしれません。

ここまで紹介してきた表現は、単語自体が新しいわけではないところが面白いところです。
その単語の本質的な意味を押さえた上で、使い方や使うシーンを拡張しているというわけです。
このようなまさに”こなれた”表現を、使えるか、わかるか、作れるか。
かつて語学を志した者としては、そういう意味での言葉のセンスがある人を羨ましく思います。

そして同時に、ある程度の経験者でも割と役立つような本格的なテクニックがこうして動画で広く配信されているあたりに、格闘技というスポーツそのものの成熟度と時代の変化も感じました。
そのあたりは次回、格闘技とメジャースポーツのくだりでも触れていきたいと思います。

※前回からまた文体が変わってる(だ・である→です・ます)ことに今気づきました。
 要するに「気分」なので、あまり気にしないで下さい笑

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