(前回:アルゴリズム元号予想⑤へ)
今回は母音と語尾子音の分析と考察です。
前回と同様に、今回は母音・語尾子音について、①「常用漢字」②「勘申案」③「元号」の分布密度一覧表を作成してみました。こちらになります。
短母音
短母音はおおむねネガティブ
②「勘申案」vs. ①「常用漢字」と③「元号」vs. ②「勘申案」の両方でポジティブなのは、第二字のaのみです。第二字の短母音iは、②vs①のネガティヴと③vs②のポジティブで相殺し合っています。
長母音
長母音 oo が好まれる
長母音ooは③vs②の第二字を除けば、概ねポジティブです。③vs②第二字のネガティブの度合も-11.2‰という若干の補正程度。とりわけoo-a、oo-oo、e(n)-oo、oo-okのパターンが目を引きます。一方で、in-oo、un-ooは第一字に「仁」や「文」を採用して②に頻出しますが、③vs②のネガティブによって元号での実採用は少ないことが気になります。
二重母音
概ね③vs②における二重母音の強い偏向は見受けられません。②vs①と③vs②ともにaiはネガティブ。(とりわけ第二字において。②③ともに第一字に採用している大半の例は「大」)②においてeiの採用は多く、③vs②においてやや補正されています。
語尾子音
第一字のenが好まれやすい
②vs①の偏向性が強いです。概ね第一字の語尾子音n(とりわけen)はポジティブ、一方でk、tはネガティブ。第二字はokとan以外ネガティブ傾向。③vs②に目立った特徴がなく、概ね②vs①の偏向性を相殺する傾向にあります。ただし第一字のenを②vs①と同様に好みます。en-ak(第二字は全て「暦」で4例)en-oo、en-iの音パターン。
以上から得られる考察
以上、観察される傾向を淡々と足早に述べてきましたが、その理由も考察してみましょう。
短母音の回避、長母音と語尾子音enの選好は、音の安定性を得るためと考えられます。
短母音を採用するケースで多いのは、第二字に”和”、”治”、”亀”(とりわけ後二者は③において選好されている。)を取り入れるパターンです。この場合、第一字に語尾子音、長母音、二重母音を含めて音のバランスを取る工夫がなされているようです。 (第一字短母音は“嘉吉”のみ)
長母音ooは第一字、第二字ともに好まれるが(en-oo、oo-oo、oo-a、oo-ok)、どちらに取り入れても元号の音全体に安定感と包容感を与えるバランサーとしての機能を果たしているためと考えられます。
二重母音の挙動は、音自体ではなく、「大」「永」「平」「明」「正」など、元号に好ましい義をもつ特定の字に依存すると思われます。漢籍に通じた勘申者の偏向性を示す②vs①で偏りが大きく、③vs②でむしろ補正されていることがその証左です。
enが好まれるのは「元」「遠」「延」「天」など、遙遠さを想起させ、元号に相応しい字が多いためと思われます。②vs①で選好されがちなのも頷けます。第一字での採用が特に多いところは注目に値します。en-ok、en-oo、en-iなど、やはり第二字との音のバランサーとしての役割でしょうか。
語尾子音t及びkは、個性的な音韻として 使い勝手が悪いのかもしれません。
語尾子音kには、「徳」「暦」「禄」など義の観点から元号に相応しい字は多く、実際の元号の第二字への採用が 全37例 (「徳」14例、「暦」14例、「禄」7例、他)もあります。
一方で、第一字への採用はわずか5例のみです。第一字が語尾子音kで終わると、第二字でこれを受け止める適切な音がないためではないでしょうか。勘申で挙がったいくつかの例を引くと、「暦長」、「徳和」、「徳永」、「徳仁」、、、短母音で終わると座りが悪いですし、長母音、二重母音、語尾子音で終わると冗長な印象を受けます。
また、in-ooやun-ooのように、勘申者がさかんに取り入れても、為政者が(おそらく音が気に入らずに)採用しなかった特定の音パターンもあるようです。
(次回:アルゴリズム元号予想⑦へ)
参考文献
- 黒川伊保子 『日本語はなぜ美しいのか』 集英社新書 2007年
- 所功・久禮旦雄・吉野健一『元号 年号から読み解く日本史』文春新書 2018年