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音も大事な要素
元号は広く国民全員が使用するものなわけで、「理想としてふさわしいようなよい意味をもつ」べきであることは当然ながら、その音韻についても相当の注意が払われるはずです。
大正天皇重篤の際に、宮内大臣・一木喜徳郎(いつき・きとくろう)が吉田増蔵(よしだ・ますぞう)に元号の勘申を内命した際は、元号選定の五つの要領のうちの一つとして「呼称上、音調諧和を要すべきこと」が示されていました。(勘申:天皇に命じられて、学者が年号案の調査内容の上申を行う事)また、近代以前の朝廷における元号案の絞り込み過程では、「反切」(はんせつ、 後漢末の中国で開発された漢字発音表記法)も検討の対象とされたようです。和音だけでなく大陸音でも、同音異義語に不吉なものがないかなど、調査されたのでしょう。
歴史的に、元号選定の過程では音についても慎重な検討がなされていたのです。
他の言語に類を見ないほどオノマトペの豊富な日本語において、ことばの音、「語感」は重要です。
ネット上では、「安」が新元号に採用される可能性が高いのではないかという予測が多いようですね。ひらがな五十音の最初にして、上古においては「吾」(わたし)を意味するすべての始まりの言葉、そして解放感に満ちた母音である「あ」と五十音の最後から安定感を以て支える「ん」。「安」の採用の見込みが高いという巷間の見立ては、意味のみならず語感も踏まえた卓見だと私は思います。 (現政権首相の名前は元号に組み込まないと思うけど。)
漢字二字の音の組み合わせから派生するイメージ、語感、ここに元号候補を絞り込める大きな可能性を感じます。
元号候補音韻選別の方法
私は音を通じて思い切った選別を行うことにします。なにしろここで48万から数百にまで絞り込まなければならないので、大胆にヤマを張る必要がありますから。
考案した元号候補音韻選別の手順は以下の通りです。
1. 過去の勘申、元号最終決定それぞれのプロセスで採用された音韻の偏向性を分析する。
2. 1.の分析結果に、音から派生するイメージを元に考察を加え、次元号にふさわしい音韻パターンを抽出する。
改元に際して、漢籍に通暁する有識者に元号案を複数勘申させ、天皇・公卿などの為政者がそのうち一つに決定、というプロセスは平安時代から現在に至るまで変わりません。つまり、実際に採用された元号の背後には、識者らが勘申したけれども没になった元号候補群が存在するわけです。
有難いことに、所功・久禮旦雄・吉野健一共著『元号 年号から読み解く日本史』(文春新書 2018年)の巻末に、過去の全未採用元号案が所収されています。
先ずはこれを参照しながら、
- 「母集団としての常用漢字の音韻分布」と「勘申案の音韻分布」の比較
- 「勘申案の音韻分布」と「採用された元号の音韻分布」の比較
をそれぞれ行って、選定の両プロセスにおける音韻選好の偏向性を探っていきます。
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参考文献
- 黒川伊保子 『日本語はなぜ美しいのか』 集英社新書 2007年
- 所功・久禮旦雄・吉野健一『元号 年号から読み解く日本史』文春新書 2018年