将棋大賞を予想する(升田幸三賞編)

前回に引き続き、将棋大賞の予想をしてみたい。今回は升田幸三賞。升田幸三賞とは、新手・妙手を指した者や定跡の進歩に貢献した者に与えられる賞である。

升田幸三賞の検討においては、以下2点が重要だと考える。
1.独創的か
特にこのソフト研究全盛の時代において、今まで見たことのない独創的な戦法か、という点は非常に大切だと思う。

2.流行したか
これもまた大切な点で、独創的ではあるが発案者しか指していないという戦法は、選考の上で少し弱い。(決して某会長をディスっているわけではない)
やはり藤井システムのように、将棋界の流行を生み出した戦法にこそ、升田幸三賞はふさわしいと考えるのである。
以上を踏まえて、私の候補は以下の通り。

本命:大橋貴洸六段 「耀龍(ようりゅう)四間飛車」
大橋先生の著書を読んでいないため理解が浅いが、自分の中では、「3八玉型で戦う四間飛車=広義の耀龍四間飛車」だと理解している。
この形の四間飛車は、久保九段が王座戦の挑戦者決定戦で採用するなど、今年かなり流行した印象がある。
「美濃囲いから王様を一路ずらす」というアイデアは(一応昔から囲いとしては存在していたらしいが)シンプルながら斬新で、十分に升田幸三賞に値する発案だと思う。

対抗:「振り飛車ミレニアム」
こちらも今年度流行した囲い。流行度で言えば耀龍四間飛車以上かもしれない。ただ既存の囲いの応用であり、若干独創性に欠ける点はマイナスか。
またこれは私が無知なだけだが、誰の発案なのか(誰が受賞者にふさわしいのか)、よく分かっていない。

大穴:藤井聡太二冠「3一銀(棋聖戦第2局)」
個人的に、実戦で現れた妙手と新戦法は分けて表彰すべきでは?と思うが、もし実戦での妙手が受賞するとすれば藤井二冠の3一銀だろう。ソフトが6億手読んで初めて最善手と示したとかいうそれである。
ただ前回の投稿の通り、私は藤井二冠が名局賞を受賞すると予想しているため、名局賞と升田幸三賞のダブル受賞はさすがにないと思う。

というわけで私の予想は「大橋貴洸六段の『耀龍四間飛車』」とさせていただく。

将棋大賞を予想する(名局賞編)

2020年度の将棋大賞名局賞・升田幸三賞の投票受付が開始された。
https://www.shogi.or.jp/form/event/2715.html
私も観る将のはしくれとして、ずばり予想してみたい。今回は名局賞について。
名局賞を選出するにあたり、個人的には以下の3要素が重要だと考える。

1.対局の重要性、注目度
2.将棋の内容
3.その他(手数、持ち時間)

まず1.について。
過去の名局賞はすべてタイトル戦、またはA級最終局・ラス前から選出されており、今後もこの流れは変わらないと考える。
言い換えると、朝日杯の準決勝・決勝については、内容としては名局賞に値すると思うが、タイトル戦ではないため受賞の可能性は限りなく低いと思われる。(名局賞特別賞を受賞する可能性はある)

次に2.について。
「名局賞」と呼ぶからには、両対局者の持ち味が発揮された上で、終盤まで形勢不明、あるいは終盤で形勢が二転三転する内容が望ましい。
具体的には、藤井聡太先生の3一銀が話題になった棋聖戦第2局は、渡辺先生の見せ場が少なく、名局賞かと言われると疑問符が付く。

最後に3.について。
これは副次的な要素かつ個人的な好みの問題であるが、やっぱり手数は短いより長い方が良いし、持ち時間を余らせての終局よりも両者1分将棋の方が良いよね、ということである。
これらの3要素を踏まえて、私が予想する名局賞候補は以下の通り。(肩書は当時)

本命:棋聖戦第1局 藤井七段○-渡辺棋聖●
本命に挙げる最大の理由は、終局図のインパクト、美しさである。私のような級位者の観る将は、対局者を伏せて局面だけ見せられても、何の対局か普通は思い出せない。ただ本局に関しては、渡辺棋聖の王手ラッシュを藤井七段が逆王手で凌いだ手はインパクト抜群で、私が今年唯一思い出せる終局図である。また藤井現二冠にとっての初のタイトル局ということで、対局の注目度としても申し分ない。
強いてマイナス面を挙げるとすれば、終始形勢は互角~藤井有利というところで、形勢の揺れという点で物足りない面があるかもしれない。

対抗:王座戦第4局 久保九段○-永瀬王座●
内容の濃密さで言えば上記の棋聖戦を凌ぐ名局。最終盤、永瀬王座の寄せが刺さったと思われたところから、久保九段の粘り強い銀打ちの受けをきっかけに形勢が逆転。手数201手という死闘であった。
マイナス面は特に思い当たらないが、私自身が日経新聞に掲載された本局の観戦記を読んでいるため、本局を過大評価している可能性がある。

穴:叡王戦第4局 豊島竜王名人●-永瀬叡王○
手数は上記の王座戦を超える232手。またこの第5期叡王戦全体が、4勝3敗2持将棋1千日手という激闘であったため、名局賞もこの叡王戦から選出したいという思惑は考えられる。
マイナス面としては、持ち時間が1時間とタイトル戦にしては短い点(これは叡王戦のレギュレーションの問題なので仕方ないが…)と、若干豊島竜王名人が決め損ねたという印象が強い点だろうか。

というわけで、現時点での私の予想は、「棋聖戦第1局 藤井七段-渡辺棋聖」とさせていただく。
次回は升田幸三賞を予想する予定。